大判例

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福井家庭裁判所武生支部 平成8年(家)160号・平8年(家)161号・平8年(家)162号・平8年(家)163号・平8年(家)164号・平8年(家)165号

主文

1  申述人らの相続放棄の申述をいずれも却下する。

2  本件申立費用は、申述人らの負担とする。

理由

1  本件は、亡母神田靖子(平成7年9月12日死亡)の相続人である申述人らが、神田靖子の亡弟である柳本竜太郎(平成6年5月20日死亡)の遺産につき、相続放棄の申述の受理を求めている事案である。

なお、申述人ら6名は、亡母神田靖子の三五日の法事の際(平成7年10月14日)に、神田靖子の遺産である現金約300万円(神田靖子の郵便貯金を引き降ろした金員)を申述人ら6名で分配しており、したがって、亡母神田靖子の遺産につき、いずれも単純承認したものとみなされ(民法921条1号)、また、民法915条1項所定の3か月の熟慮期間が経過していたことから、亡母神田靖子の遺産につき相続放棄を求めた申述人ら6名の申述がいずれも却下されたことは、当裁判所に顕著な事実である(当庁平成8年(家)第××号・××号・××号・××号・××号・××号相続放棄申述事件)。

2  そこで、検討するに、一件記録によれば、神田靖子は、平成6年5月20日に死亡した柳本竜太郎の遺産につき、相続放棄の申述をすることなく平成7年9月12日死亡したことが認められるところ、民法916条によれば、「相続人が承認又は放棄をしないで死亡したときは、民法915条1項所定の3か月の熟慮期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から、これを起算する」旨を定めている。

この熟慮期間の起算点である「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、相続人が相続財産が全く存在しないと信じ、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状況その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難である等の特段の事情のない限り、「相続人が、相続開始の原因たる事実(被相続人の死亡など)及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った時」の意義に解するのが相当であり、相続人が相続財産の存在を認識することまでは原則として必要でないと解すべきであるが(最高裁昭和59年4月27日判決・民集38巻6号698頁参照)、仮に、本件において、申述人らに有利に、前記特段の事情があると解し、熟慮期間の起算点を「相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時」から起算すると解釈するとしても、一件記録によれば、申述人神田英明は、平成8年1月23日、町田隆史から、「自分は、柳本竜太郎所有の不動産につき、所有権移転登記請求権仮登記に基づく本登記請求権があるので、柳本竜太郎を相続した神田靖子の相続人である申述人らは、登記手続義務の履行をしてほしい。」旨の催促を受け、自らが柳本竜太郎の遺産を相続する立場にあることを知り、その後、申述人清水裕人は、平成8年1月下旬に、その他の申述人4名は、平成8年2月下旬に、それぞれ、申述人神田英明から、右の町田隆史の話を聞かされ、同様に、自分らが柳本竜太郎の遺産を相続する立場にあることを知るに至ったことが認められる。

以上によれば、本件において、申述人らに有利に、前記特段の事情があると解し、熟慮期間の起算点を「相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時」から起算すると解釈するとしても、申述人神田英明は、平成8年1月23日に、申述人清水裕人は、平成8年1月下旬に、また、その他の申述人4名は、平成8年2月下旬に、いずれも、柳本竜太郎の相続財産の存在を認識したと認められるから、申述人らが本件申述受理申立書を当庁に提出した平成8年7月10日の時点において、既に、3か月の熟慮期間が経過していることは明白である。

3  よって、申述人らの本件相続放棄の申述は、いずれも、民法916条、915条1項所定の3か月の熟慮期間を経過しており、不適法であるから、主文のとおり審判する。

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